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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(あ)5319号 判決 1956年8月30日

主文

原判決及び第一審判決を破棄する。

被告人は無罪。

理由

職権により調査すると、原審は「本件請負契約締結には被告人の欺罔による錯誤が存在するというべく、即ち若し町において、被告人が請負人に承諾させた実際の請負金額を知ったとするならば、町は原判示(第一審判決判示)のような内容(請負金額について)の請負契約を締結せず、またこれが請負代金の支払をしなかった筈であることが窺い得る(町は殊更に工事につきその予算額又はこれに近い金額を費さなければならない訳ではなく、出来る限り工事費の低廉を計るは当然のことである)。してみれば、被告人は町を欺罔することによって実際の請負金額より多額な金額を支出させ以って自己に取得する権利のない金員を領得したのであるから、騙取したものに他ならない。」と判示している。しかし、事実審が証拠によって確定したところによれば、被告人は請負人に代って亀山町との間に工事請負契約を締結し、また請負人の代理人として右請負契約に基く工事代金を町から受領したものである。そしてかかる場合においては、被告人が請負人との内部の関係において請負人に承諾せしめた請求金額を、注文主たる亀山町に告知せねばならぬ法律上の義務が被告人にあるとすべき特段の事由は認めることができないのである。たとえ事実審の認定したごとく、被告人が、請負人に対しては亀山町の工事費予算額を知らせずその予算額よりはるかに低額で請負うことを承諾させ、一方国町役場係員にはその事実を秘してあたかも請負人は同町役場の予算額(又はその範囲内で、右請負人に承諾させた請負金額を上まわる額)で請負うもののごとく申し向け、本件請負契約を締結し、そして工事完了により町役場には請負人が町との契約額を請求するよう申し向けて、自己にその代金の交付を受け、当初請負人の承諾した代金との差額を被告人が領得したとしても、被告人は町と請負人との間に有効に成立した請負契約に基づく当然の請負代金を受領したに止まり、被告人の本件所為が、町との関係において詐欺罪成立の要件たる騙取行為があったものとすることはできない。それ故、被告人の本件所為は詐欺罪を構成せず、刑訴三三六条により無罪の言渡をなすべきものであり、これと反する事実審の判断は違法であって、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

よって、弁護人清水繁一の上告趣意に対する判断を省略し、刑訴四一一条一号、四一三条但書により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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